この数年間、私たちマリアの宣教者フランシスコ修道会は、現代世界の問題によりよく応えるため、新たな生き方を求めて、修道会全体で「Transformationの旅路」を歩んでいます。エジプト管区のルクソール共同体の「Transformationの旅路」を紹介しましょう。
ルクソールは、古代エジプトの都テーベがあった場所で、現在も数多くの遺跡が残っている観光都市です。ルクソール共同体は、2018年に創立50周年を迎えました。主な使徒職は、教会での司牧活動と幼稚園の手伝いですが、ルクソールから35㎞離れたレゼガト村でも、司牧活動に携わっています。現在は、国籍が異なる4人のシスターが派遣されています。マリアの宣教者フランシスコ修道会は、この数年、「Transformationの旅路」を姉妹全員で歩んでいます。2018年には、その旅路の中で、私たちを取り巻く状況の「センシング」をするように呼びかけられました。それは、私たちが派遣されている周りの状況をよく観察し、その中から現れて来る必要を「感じ取り」、私たちのできることを識別していくプロセスです。
私たちは、まず、ルクソールとレゼガトの町中の様子をよく観察することにしました。すると、学校に行っているはずの時間に、町で遊んだり、たむろしている大勢の子どもや若者の姿が目に入りました。どうして学校に行かないのでしょうか。貧しさからなのでしょうか。少しずつ子どもや若者に近づき、聞き取りをしているうちに、この地域の教育の現状がわかってきました。子どもの数が多く十分な学校数がないこと、しっかりとした資格を持たない教師たちが多く教え方も十分でないこと、社会的・人格的な成長を促す活動がないことなど様々な問題が浮かびあがってきました。学校以外の塾もありますが、あまり効果を上げてはいないようです。数年間学校に通っても、正しく読み書きのできない子どもが大勢いることも分かってきました。学校に少しは通っても、途中でドロップアウトしてしまい、一日中通りでよくない遊びをして、悪習を身に着けてしまっている子どもも大勢います。このような現実をほとんど気にかけていない教師や親も多いようです。町で遊んでいる子どもたちに「どうして学校に行かないのか」と尋ねると、「学校に行っても分からないし、面白くない」というのが大半の答えでした。
このような現実を前にして、私たちは勉強に躓いている子どもや、知的、人格的、社会的成長の手段を持たない子どもを支援するにはどうしたらよいのかと考え始めました。そして、一つのプロジェクトが浮かびあがってきました。それは勉強と人格的な成長を助けるセンターです。そこで、調査を始めました。教会の聖ヴィンセンシオ・ア・パウロ会の助けを借りて、子どもをよく教育できていない家庭を探し、その中でも私たちの近くに住み、私たちが知っている家族を選び、もし、勉強を手伝うセンターがあったら、そこに子どもを送るかどうか尋ねました。するとほとんどの家庭が、「それはありがたい」という返事でした。それで、幼稚園の物置き小屋を改造し、教具を揃え、プログラムを立て、私たちを助けてくれる若いボランティアを探しました。
最初の生徒は、エステファノスでした。12歳の大きな黒い目が輝いている少年で、シスターたちとセンターが大好きになりました。しかし、自分をコントロールしたり、規則を守ることができず、すぐに癇癪を起していましたが、少しずつ成長していきました。そして、友達を連れて来るようになり、かなりの数の困難を抱えた子どもたちが集まるようになりました。少しずつですが、一人ひとりが自分なりの成長を遂げ、それが私たちの喜びになっています。
例えば、アミラは12歳の女の子ですが、全く読み書きができませんでした。彼女は読み書きができないことをとても恥ずかしがり、臆病で、センターに来ても、活動に加わろうとしませんでした。しかし、センターに来て読み書きを教わっているうちに学習意欲が増し、積極的に参加するようになってきました。もう少ししたら、学校に通えるようになるかもしれません。
2018年10月にたった8人で始まったセンターは、今では6歳から15歳までの20人の子どもが集うようになっています。数学、理科、アラビア語、英語などの勉強を見てやり、それまでに躓いていた所を教え、学校に戻る準備をしています。子どもたちの興味を持つように、いろいろな工夫をし、ゲームを取り入れたりしています。子どもたちに人気があるのは「メモリー」というゲームです。世界中の60か国の旗を準備し、子どもたちが、その旗を世界地図に貼り、国の名前を言います。彼らはたくさんの国の名前を覚え、喜んで、世界地図を完成させていきます。
子どもたちは、エネルギーに満ち、多くの才能を内に秘めていますが、忍耐がなく、落ち着きがありません。彼らの才能を発見するのを助けるのが、私たちの大きな課題です。一人ひとりの子どもの才能を引き出すために、私たちは、決まりきったことではなく、創造的な方法を考えださなければなりませんし、時には厳しく子どもたちに接しなければならないこともあります。子どもたちが、私たちとの関わりを通して「自分は神様と人々から愛された大切な人」だと感じてほしいと願いつつ、活動を進めています。
このプロジェクトについて語るとき、いつも「私たち」を主語にして語ってきました。というのは、このプロジェクトは、私たち共同体のプロジェクトだからです。4人のシスターそれぞれが、自分のできることを発揮し、協力しながら、センターに集う子どもたちを見守っています。この協力こそが私たちの「Transformationの旅路」なのです。私たちが子どもたちを見守るように、神が私たちの旅路を見守っていてくださいますように。
Luxor Community