ポーランドでは、数年前から、自分の手で育てられない母親が、赤ちゃんを無事に育ててもらうために、名のらずに赤ちゃんを置くことができる「いのちの窓」が教会によって開設されてきました。マリアの宣教者フランシスコ修道会のザモスク修道院にも「いのちの窓」が開かれ、そして、2013年6月30日、男の赤ちゃんが置かれていました。
午後7時45分、大きなサイレンが修道院中に響きわたりました。それは「いのちの窓」開設以来、初めてのサイレンでした。
「いのちの窓」に走って行ったシスターは、生まれたばかりのような赤ちゃんの姿を見て、すぐに抱き上げました。それは、小さな男の子でした。そのシスターの後ろを追ってきたシスターたちが、救急車を呼び、白いタオルに包まれていただけの赤ちゃんに産着を着せました。数分もたたないうちに救急車が到着し、救急隊員は、病院に連れていく前に、シスター全員に赤ちゃんを見せてくださいました。病院で検査を受けた赤ちゃんは、元気で、その日の午前中に生まれたらしいことがわかりました。その前日が聖ペトロ・パウロの祝日だったので、シスターたちはその赤ちゃんをペトロ・パウロと呼ぶようになりました。
ザモスクの「いのちの窓」は、「いのちの年」であった2009年6月5日に開設されました。実はその年、私たちの修道院から程遠くないゴミの山に一人の赤ちゃんが捨てられていのちを落としたという事件があったのです。それを聞いた町の人々は、赤ちゃんを産みたくても妊娠を隠さなくてはならない女性や、何かの事情で赤ちゃんを育てられない女性のために何かをしたいと思い、私たちの修道院に「いのちの窓」が開設される運びとなったのです。修道院には、23人のシスターがいますので、誰か彼かが「いのちの窓」の近くにいますし、「いのちの窓」は、女性たちが人目に触れずに赤ちゃんを置くことができるように目立たない場所に作らなければなりませんが、修道院はその意味でもぴったりの場所でした。「いのちの窓」は、外から開けられるようになっており、窓を開けると中は暖かい保育器になっています。そこに赤ちゃんが置かれると10秒後にサイレンが鳴り、シスターが駆けつけることができます。すぐに赤ちゃんに救急処置を施し、救急車を呼びます。赤ちゃんは小児病院に運ばれて、検査を受け、元気ならば、一時的にお世話をしてくれる家族のもとに引き取られます。それと同時に赤ちゃんの身元調査と養子縁組の手続きが始められますが、「いのちの窓」の赤ちゃんは、「捨て子症候群」にならないために、手続きが始まるとすぐに、新しい家族のもとに引き取られることになっています。
最初の「いのちの窓」は、約10年前に、ドイツで開設されました。今では、ドイツでは100以上の「いのちの窓」があり、またヨーロッパ中に広がっています。ポーランドでは、2006年、クラクフのナザレト修道会によって始められ、ヨハネ・パウロ2世の帰天1周年を記念して、クラコフ大司教区とカリタスの主導で、ポーランド中に広がってきました。現在、50以上の「いのちの窓」があり、今までに、63人の赤ちゃんが救われました。
私たちの修道院の「いのちの窓」で見つかった赤ちゃんの産みの母親は不明です。どうして母親が赤ちゃんを「いのちの窓」に置いたのかわかりませんが、何か事情があって、手元で育てることができなかったのでしょう。今小さなペトロは、新しい家族の中で大切に育てられています。シスターたちもお祈りで、彼の成長を見守っています。いのちの源である神様が、彼を守り、無事に成長させてくださいますように。 Anna Pospiech, fmm