事業の組織化と近代化
管区の養成の中心的な場として修練院を建て直すことは、M.ピエ-ルが最も情熱を傾け、詳細にわたって心を配ってきたことですが、管区の事業に対しても、管区が社会の必要に応じて進められる教会の宣教活動に積極的に参加していけるように、事業の組織化と近代化を成し遂げました。当時、近代設備を備えたプロテスタントや仏教などの慈善団体経営の病院や施設が目立ち始め、時代遅れのカトリック病院や施設は存続さえ危ぶまれていました。管区評議会の席で管区長は次のように述べています。「会長様のおっしゃる通り、これは世界的な傾向ですから、私たちも時代の要請に応えていかなければなりません。そうしないと時代に取り残されてしまいます。前進しましょう。若い人たちを養成し、事業を発展させましょう」と。実際に会員の職業教育と事業の組織立ては「日本の殉教者の聖母」管区が新設された1932年の総会で強調されたことでした。
事業の近代化に見られる管区の基本方針
M.ピエ-ルは「日本の殉教者の聖母」管区として新たに歩み始めた日本管区の基盤を、一層堅固なものにするために管区評議会を設置し、各修道院に院内評議会を設けました。また、熊本にある管区の社団法人「マリア奉仕会」事務所を管区館へ移転させるなど、時代の必要に応じて本会の事業を近代化していきましたが、なかでも常に会員の養成を優先させました。つまり会員の霊的刷新は、管区長が目指す近代化の大切な部分を占めていたのです。毎年行われた共同体訪問の報告書からその幾つかをあげると、事業の場で「自分がFMMの一員であることを忘れず、宣教の使命感をもって仕事に取り組むこと」、日本人の会員には「もっと視野を広げ、国際的な宣教者になるように」勧め、常にマリ・ド・ラ・パシオンの言葉を引用してその精神を伝えています。また特にアグレジェに対して細やかな心づかいを示し、院長には「その生活条件を改善し、健康に配慮し、各自の能力に応じて勉強させ、アナ-ル誌やクロニック誌を通して世界の出来事や本会の働きを知らせるように」指示しました。このように管区長は会員の霊的刷新と生活の質の向上を図る一方、建物や設備の近代化の必要性を強調しながらも「余り早急に拡張せず、事業の中で最も重要なものから思い切って近代化する」こと、と述べています。また「今は共同体と既存の事業に必要な最小限度の近代化にとどめる時」で「借金をしてでもすべきことはしなければならないが、今は事業を広げる時ではない」と考えていました。管区長が「重要な事業」と考えていたのは、最も貧しい人を優先している事業のことでした。事業の近代化の背景には「事業は特に貧しい人々に近づき、福音を伝えることのできる重要な宣教の場」という、強い確信と摂理への深い信頼がありました。