日本から韓国に派遣されて3年半がたちました。私は釜山(プサン)にある修道院で暮らし、障がい者の施設で働いています。施設には自閉症、ダウン症、知的発達障がいをもつ10代から40代の16名が生活しています。彼女たちが好きな歌の一つに『あなたはできる、と言ってください』という歌があります。「あなたはできる、と言ってください。そうすれば私達は何でもできるでしょう」と続きます。「あなたはできるよ!」と励まし続ける私たち職員と、「私はできる!」と信じて努力している利用者たちの日常を分かち合います。
Aさん、Bさん、Cさんは、私が洗濯物を干したり取り込んだりしようとするとついてきます。言葉をうまく話せない彼女たちは、以前はおとなしく座っているだけでしたが、自分の気持ちを表現できるように何度も何度も練習してきました。今では身振り手振りで「私もやってみたい」と伝えてくれます。タオルをたたみ、次には洗濯バサミを使う練習をしました。その度にいつも「あなたはできる」と励ましました。今は上手に洗濯物を干すこともできます。彼女たちが集中して仕事をしている顔や、仕事を仕上げた後の「できた!」という満足そうな笑顔を見ると私も嬉しくなります。
Dさんは、運動が嫌いです。そのため体重が増え「膝が痛い」と訴えるようになりました。担当の先生が心配し、忍耐強く説得して、毎日一緒に運動を始めました。Dさんは初め、運動が嫌いでしたが「あなたはできる」という言葉に励まされ、手をつないで歩き続けました。徐々に体重が減りだし、体も心も軽やかになったDさんは、ニコニコ笑いながら「私の先生、最高!また体重が減ったよ」と報告してくれます。「今日は朝からシスターと運動に行って、午後は先生と運動に行く」と意欲を見せています。
Eさんは、友達との間で毎日何かしらの問題を起こしていました。優しさや愛情が必要なのですが、誰もがEさんとの関わりを難しいと感じていました。私は、手先の器用なEさんにモンテッソーリ教育の「ぬいさし」というお仕事を紹介しました。「ぬいさし」とは、厚手の紙に穴をあけ、針と糸で縫う作業です。Eさんはこの作業に夢中になり、上手に縫い上げました。次から次へと作品を完成させるEさんを見て、先生も友達も「Eさん、すごく上手にできたね」と声をかけるようになりました。皆から認められる喜びを知り、自分の才能にも気づいたEさんは、時間ができるとぬいさしに取り組み「次は私が絵を描いてそれを縫ってみたい!」と言うほどです。
FさんとさんとGさんとは、地域の一人暮らしのお年寄りを訪問します。訪問の数日前から、挨拶の練習をするFさんは、緊張すると足がすくんでしまいます。「私はできる!」と大きな声で言い聞かせ、施設からお年寄りの家までの坂道を下ります。Gさんは「おばあちゃんたちに歌のプレゼントをする」と言って、坂道を下りながら大声で「きらきら星」を歌いだします。お年寄りたちはそんな二人の訪問を心から喜んでくださり、彼女たちを抱きしめて感謝してくださいます。訪問を終え、坂道を登りながら「私は上手にできた?」と聞いてくる彼女たちに、「とっても上手にできたよ」と答えると「また行きたい!」と言って嬉しそうに笑います。
毎日、夕方5時少し前、私は仕事の手をとめ耳を澄まし「さあ、Hさん、あなたはできるよ」と心の中でつぶやきます。5時になると「トントーン」というHさんの声が響き渡ります。Hさんは職員室の扉の前で「どうぞ」という声を待っています。以前のHさんは、突然職員室の扉をあけ、パズルや鉛筆、ノートなどを半ば奪い取るように持っていきましたが、練習を重ねて、ようやくノックをしたり(トントーンと言う)「どうぞ」と言われてから入ったり、先生から物を受け取ったりすることができるようになりました。私は大好きなパズルに取り組むHさんの横を通りながら、「今日も上手にできたね」と言います。そして私にも、「あなたはできる!」と期待をかけてくださる神様に「今日の仕事をすべて終えることができました。ありがとうございました」と、報告しながら修道院に帰る毎日です。
(Sr. C .O)