マリアの宣教者フランシスコ修道会 日本セクター

ボトルは静かに足を傷つけた

 私が初めて日本に来た時は、ちょうど冬でした。今年で7年目になりますが、まだ分からないことがたくさんあります。少し体験を分かち合いたいと思います。

 7年前、私は日本語を勉強するために、1月から学校に行き始めました。私の国には冬の時期がないので、初めての冬はとても寒くてたまりませんでした。できるだけ体を温かくしましたが、手だけはいつも冷たかったのです。それで、学校に行く時はいつも熱いお湯を忘れないようにしていました。お弁当よりも熱いお湯のほうが大切でした。

 ある日いつものように、学校に持っていくために熱いお湯を小さなプラスチックボトルに入れ、それを手に握ったまま駅に向かって歩いて行きました。気持ちが良かったです。駅に着いたので、私は電車に乗るために走りながら、手に持っていた熱いボトルをそのままかばんに入れました。

 電車の中は満員でした。私の前に、黒いストッキングとミニスカートをはいている綺麗な女性がいました。彼女は、最初私の近くにいましたが、人の波に流されてだんだん離れていきました。ですが、いくつかの駅を過ぎた頃には、また人に押されて私のすぐ近くに戻って来ました。

 私は、彼女が「つい、つい」と言っているのに気が付きました。彼女がそう言っている時、周りの人から離れたいように見えました。私は彼女のことが気になりましたが、日本語がわからないので何も言えませんでした。それで、できるだけ彼女の邪魔にならないように、ちょっと頭をさげてみました。しばらくして、彼女がまた「つい、つい」と言っているのが聞こえました。

 電車はとても混んでいて、私は押しつぶされないように気をつけていましたが、私のかばんが他の人に当たっているようでした。すると今度は、彼女が動きながら「あつい、あつい」と小さな声で言っているのが聞こえました。けれど、私にはその言葉の意味が分かりませんでした。

 私が降りる駅に着いた時、彼女も電車を降りました。遠くから彼女を見ましたが、「あつい、あつい」という言葉が耳に残りました。それで、忘れないようにするために、歩きながら何回もその言葉をくりかえしました。学校の先生に聞いてみるつもりでした。

 休憩時間に、先生に聞くチャンスがありました。私は手にボトルを持ちながら先生のところに行き、「すみませんが、先生、あついの意味は何でしょうか?」と聞いてみました。先生は、「hot」と答えてくださいました。その時、私のボトルはまだ少し熱いくらいでした。それで、電車の中で会ったあの女性のことを思い出しました。彼女は、私のボトルが足に当たって熱いと言っていたのかもしれません・・・。本当に、気づかないうちに、他の人を傷つけることがあるのですね。多くの場合、私たちの言葉や態度が、気づかないうちに他の人を苦しめるのです。それは大変なことです・・・。私はこの体験から学ぶことになりました。電車で会ったあの女性がこの記事を読んでくれていたらお詫びしたいです。いつかまたお会いできたらいいのですが。

(Sr. G.W)