福島県南相馬市は2006年1月1日に原町市、相馬郡鹿島町と小高町が合併し鹿島区、原町区、小高区の3区でできた浜通りに位置する市です。南相馬市は震災前の人口は70,772人(2011年3月)でしたが、2015年9月現在は63,158人です。現在避難した人たちが次第に市内に戻って来られますが、4年半後でも住民票を残したまま市外に避難している人が約2万人と言われています。ですから人口の正確な数字は分かりません。現在は多くの除染労働者がいます。
2013年3月27日に、管区は南相馬市原町区大原のこの土地に家を借りて修道院を創立しました。現在、原町共同体は3人のシスターで生活しています。
外に出るとまず目に着くのが白い塀です。除染した土をトン袋に入れここに保管します。トン袋とは汚染した土を入れた黒い袋で1トンずつ入れるのでトン袋と言っています。この白壁が2ヶ所、目の前にあります。何百とこの中に積み重ねられています。ここは仮仮置き場です。次の場所に移されるまでここに保管します。今年大雨がつずきましね、このトン袋が雨に流され川や畑が汚染されましたニュースがありました。ここではありませんが、このようなトン袋は福島では珍しくありません。
私たちの周りの放射能の量は、0.513マイクロシーベルトあります。私たちにもっと近くにもモニタリングがありますが、『検討中』と書いた札があり、一度も動いたことがありません。放射能染量が高いからかも知れません。(1シーベルト=1,000ミルシーベルト、1ミリシーベルト=1,000マイクロシーベルト。日本では1ミリシーベルトが一般市民の1年間の被爆限度になっています。)
原町教会は30年近く巡回教会でした。地震で教会の建物の屋根が壊れ、壁も落ちていました。信徒の方々は避難され、解除になって戻られた信徒の方々にとって、“この教会に集い、共に祈る方々が来てくださるのが一番の願い”となりました。それから教会の建物が修復され、2012年に名古屋教区の狩浦神父様が来てくださり、今日まで毎朝7時のミサがあります。信者は少なく日曜日のミサに10名前後ですが、原町ベースのシスター達やボランテイアさん達が集まり、25名〜30名が参加します。ミサ後のお茶会は信者さん達とボランテイアさん達との交わりの場です。週日のミサにはベースのスタッフとシスター達で、時々ボランテイアさん達(多くは信者さんですが、そうでない人も来ます)が加わります。司祭の少ない仙台教区で毎日のミサに与れるのは特別なお恵みです。
カリタス原町ベースというのは、カトリック東京ボランテイアセンターから立ち上げられたカリタス原町ベースです。2012年6月1日に開所しました。南相馬市社会福祉協議会での活動、近隣の仮設住宅集会所“まごころサロン”の支援、傾聴などの活動が始められました。現在、聖心会のシスタ―畠中がベース長をしておられます。私たちもボランティアとして参加させていただき、全国各地からいらっしゃるボランティアの方々との多くの出会いを頂いています。
私たちは次のような活動をしています。
大家さんのログハウスで、毎月第2水曜日に“気晴らし会”をしています。この大原には娯楽がなく、高齢者ばかりで彼らに何か娯楽に映画ができないかと大家さんに声をかけられて始まりました。高齢者のための映画はどんなものか、大家さんと相談しながら決めます。映画を決めるのに、今も苦労しています。やはり日本映画で、洋画は敬遠されます。またミニ音楽会や、マッサージによる“自分の健康は自分で守ろう”をしたりしました。30名前後の参加があります。
第3水曜日にはパッチワークをしています。仮設住宅で毎週水曜日にパッチワークがありますが、自宅に住んでいる人たちはその機会がありませんでした。仮設住宅でしているパッチワークを私たちもしたいとの希望でログハウスで始めました。もう1年以上になります。始めたときは8〜10名でしたが、今では25名の参加があります。作品を完成するまでのみんなのおしゃべりには色々な話が飛び交います。時間になっても作品が未完成だと、それが宿題になります。毎回新しい作品ができ、来年には展示会をしたいと思っています。
修院では、第1木曜日に“祈りの会”を開いています。原町教会の信者さん達とベースのシスター達がきます。信者の3人の方は毎回の祈りに欠かさず参加されます。信者さんたちは、信仰を深めたいという強い願いがあり、それに少しでも応えたいと思っています。
原町ベースでは、私たちは毎週金曜日にボランテイアさんたちの夕食作りをしています。メニューは、そこにある食材を見て決めています。時々は買い物に出かけることもあります。年配のシスターは、毎週月、水、金の3回、福島に関する新聞記事の保管のための切り抜きとボランテイアさんたちの活動をコンピューターで記録しています。
教会では典礼を信者さんと共に準備し、クリスマス会、復活祭などの大きなお祝い日の準備をお手伝いしています。一人のシスターは、月一回、日曜日に典礼講座を担当しています。
原町教会では、メルトダウンの日を記念して「3・15“命の光”」というイベントを始めました。今では、原発事故を通して考えさせられたことを深めるために、2ヶ月ごとに学習講座を行っています。私たちもそのメンバーです。
カリタス原町ベースと協力して2つの仮設住宅を訪問しながら野菜を配り、老人ご夫婦や一人住まいの方々に喜ばれています。初めは、声をかけても引き戸を閉めたままで、野菜を置くだけでしたが、次第に戸を開けて挨拶を交わせるようになりました。次第に新しく家を建て移っていく人、放射能による帰宅困難地域が解除されて戻っていく人などで、仮設住宅の人が少なくなってきました。しかし、なかには戻りたくともそこには誰もいない、震災前とは違った土地になってしまったので戻れない、あるいは家を建てるにしてもその余裕がないなど、それぞれの理由でまだ仮設住宅に残る人たちがいます。
2016年4月に南相馬市小高区が避難解除になるのに先立ち、2015年10月に情報発信基地プラットホームが開かれました。帰還する小高の住民がこのプラットホームをお茶の間のように使うことを期待しています。毎週火曜日は原町ベースが担当し、私たちも参加しています。まだ小高区には地元の人の姿はほとんどなく、除染労働者だけが働いています。私たちは、地元の人々を迎えるために、そこにいるようにしています。
また、2ヶ月ごとにグリーフケア・パートナー・グループがイベントを行うために、ログハウスを利用しています。カラオケ、鍼灸治療、福引、バーベキューなどで楽しませてくれます。毎回60人以上の参加があります。
私たちの生活の中心は、人とのかかわりです。これらの活動を通して、多くの人々と出会っています。喜びと苦しみを共にしながら、私たちは地元の人たちと生活を分かち合うようになりました。
私たちは、未来の見えにくい福島の苦悩に少しでも支えとなり、希望が生まれることを願いながら、共に祈っています。